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【第6回】退職代行の実務的対応と留意点4(退職事由編)
はじめに
第5回では、使用者から通知書の回答がない場合の対応について検討した。第6回では、離職事由の問題について取り上げていきたい。
退職事由の区分
労働者が退職手続代行を依頼した理由が職場内でのハラスメントや使用者からの退職勧奨を受けたことがきっかけである場合、退職事由について交渉の対象となることが多い。
退職事由の問題は厳密に分けると、①離職票-2の「離職理由」及び「※離職区分」の欄の記載内容に関する問題と②雇用契約における退職事由の扱いの問題(例えば、自己都合退職か会社都合退職かで退職金の金額が異なる場合)の2つがある。
離職票の離職理由及び離職区分
離職票の離職理由及び離職区分は、主に雇用保険の基本給付の給付制限及び所定給付日数にかかわる。
この問題を検討する前提として、まず、雇用保険の基本手当を受給するまでのおおまかな流れについて確認したい。
1 離職票発行の流れ
(1) 使用者による資格喪失届及び離職証明書の提出
労働者が退職した場合、使用者は労働者が離職票の交付を希望した場合には、退職日の翌日から起算して10日以内に、事業所を管轄するハローワークに対して雇用保険被保険者資格喪失届(資格喪失届)と雇用保険被保険者離職証明書(離職証明書)を提出する(雇用保険法第7条、同施行規則第7条第1項第1号)。
(2) ハローワークによる審査と交付
書類を受理したハローワークは、記載内容が事実と相違ないか審査を行う。相違ないことが確認できた場合、ハローワークは雇用保険被保険者離職票(離職票)を作成し※、労働者に交付する(同施行規則17条1項1号、厚生労働省「雇用保険に関する業務取扱要領」(以下「取扱要領」という。)21503⑶)。離職票の交付対象は労働者であるが、ハローワークは使用者を通じて交付を行うことができるため(雇用保険法施行規則第17条第2項)、離職票は一旦使用者に交付され、使用者を経由して労働者に交付されるのが通常である。
※ 離職票-2の作成と「離職区分」の判定
離職票-2の内容は、基本的に使用者が作成した「離職証明書」がそのまま反映される。用紙の場合は離職証明書(複写式)の内容がカーボンで転写され、電子申請の場合はシステム審査を経て、PDF形式で離職証明書の内容が反映された離職票が作成される。
ハローワークは、届け出られた離職理由を審査し、離職票-2右端の「※離職区分」欄に、適正と認めた番号を○で囲む(取扱要領21503⑶ロ(ハ))。離職理由について労使間で意見の相違がある場合、ハローワークは原則として「事業主の届出内容」に基づき、判断する(取扱要領21503⑶ロ(ハ))。
つまり、離職票が発行された段階で、離職票の離職区分は、原則として使用者(事業主)が離職証明書に記載した内容が記載されることになる。
2 離職票発行後〜基本手当給付までの流れ
交付を受けた労働者は、自身の住所地を管轄するハローワークに離職票と求職票(求職の申し込みにより作成する書面)を提出する(取扱要領50002⑵)。提出を受けたハローワークは受給資格等の審査を行い、受給資格が認められる場合には受給資格決定を行い、基本手当を支給する(雇用保険法第13条第1項、取扱要領50101⑴⑵)。
後述する特定受給資格者の確認及び給付制限の認定も、労働者の住所地を管轄するハローワークが行う。この認定については以下のように行う(取扱要領50306⑹及び52201⑴ロ)。
・離職理由が使用者と労働者で一致している場合:使用者の事業所の所在地を管轄するハローワークの判断を主とする。
・事業主と離職者で主張が異なる場合、または離職票の内容では離職理由が判断できない場合:客観的事実の把握、離職者の申立の聴取の上で認定を行う。この判定については、客観的資料、関係者の証言、離職者の申立等を考慮する。
給付制限と特定受給資格者
雇用保険の基本手当は、労働者の住所地を管轄するハローワークに離職票を提出し、求職の申し込みをした日から7日の待機期間を経て支給されるが(雇用保険法第21条)、離職理由によっては最長3ヶ月の給付制限を受けた上で支給が開始される(同法第32条以下)。
また、離職理由によって「特定受給資格者」(同法第23条第2項)に該当するか否かが変わり、該当する場合は所定給付日数(1つ受給資格に基づき基本手当が支給される日数のこと(同法第22条第1項柱書参照))が延長される(詳しい日数は同法第23条を参照)。
給付制限と特定受給資格者の要件
退職手続代行を依頼する労働者は、退職後の生活に不安を抱える者が多く、基本手当の給付制限を受けるか否かは重要な事項である。法律上の要件に即してこれをみると、労働者の退職が雇用保険法第33条第1項本文に規定される「正当な理由がなく自己の都合によつて退職した場合」に該当するかという問題になる。労働者が自己都合によって退職した場合においても、「正当な理由」があると判断された場合には、給付制限を受けない。労働者からの相談を受けていると、失業保険給付の給付制限を受けないために「会社都合」の退職を希望するという場合が多いが、退職手続代行における基本給付の給付制限との関係においては、退職理由が自己都合か会社都合かよりも、退職に「正当な理由」があるかどうかが問題となる。
そこで、どのような場合に「正当な理由」があるかが問題となるが、取扱要領によると、「『正当な理由』とは、被保険者の状況(健康状態、家庭の事情等)、事業所の状況(労働条件、雇用管理の状況、経営状況等)その他からみて、その退職が真にやむを得ないものであることが客観的に認められる場合をいうのであって、被保険者の主観的判断は考慮されない。」とされている(取扱要領52203⑶柱書)。
「正当な理由」に該当する具体的な内容が取扱要領52203⑶のイ以下に記載されているが、退職手続代行との関係で問題となることが多いのは、「リ 上司、同僚等から故意の排斥又は著しい冷遇若しくは嫌がらせを受けたことによって退職した場合」及び「ヌ 直接若しくは間接に退職することを勧奨されたことにより、又は希望退職者の募集に応じて退職した場合」である。これらの具体的な判断基準については、特定受給資格者の判断基準(取扱要領50305 ロ(リ)a 及び 50305 ロ(ヌ))が参照されており、実務上は、「正当な理由」に該当する場合=「特定受給資格者」に該当する場合という扱いになっている。
取扱要領50305 ロ(リ)a 及び 50305 ロ(ヌ)の内容は以下のようになっている。
50305 ロ
(リ) 事業主又は当該事業主に雇用される労働者から就業環境が著しく害されるような言動を受けたこと
当該基準は次のいずれかに該当する場合に適用される。
a 上司、同僚等の排斥又は著しい冷遇若しくは嫌がらせに「故意」がある場合
離職者より申立があり、特定の労働者を対象とした配置転換(事業所における通常の配置転換を除く。)又は給与体系(例えば固定給が減額され、一部歩合制に変更がなされた場合等)の変更が行われていた事実があれば、事業主の「故意」があるものと考えられるため、当該基準に該当する。
なお、管理者が、部下の職務上の失態、勤務態度又は勤務成績等に不満がある場合、注意、叱責することは通常起こり得ることであるから、そのことだけをもっては、当該基準に該当しない。50305 ロ
(ヌ) 事業主から退職するよう勧奨を受けたこと
次のいずれかに該当する場合に適用する。
a 企業整備における人員整理等に伴う退職勧奨など退職勧奨が事業主(又は人事担当者)より行われ離職した場合
b 希望退職募集への応募に伴い離職した場合
この場合の「希望退職募集」とは、希望退職募集の名称を問わず、人員整理を目的とし、措置が導入された時期が離職者の離職前1年以内であり、かつ、当該希望退職の募集期間が3 か月以内である場合をいう。
退職手続代行としての対応
離職票の発行から労働者が雇用保険の基本手当を受領するまでの一連の流れ、給付制限及び特定受給資格者の内容を確認した。
退職手続代行として、労働者の主張する離職理由をハローワークに認定してもらうために対応すべきこととしては、まず、使用者が資格喪失届及び離職証明書をハローワークに提出する前に、労働者の主張する離職理由を記載した離職証明書をハローワークに提出するように使用者と交渉することである。
交渉を行ったものの、離職証明書の記載が労働者の主張する離職理由とならず、使用者の主張する離職事由及び離職区分で離職票が作成された場合であっても、労働者の住所地を管轄するハローワークに離職票を提出する際に、労働者の主張する事実関係及び法的主張をまとめた書面を作成し添付する等の対応を行う。
雇用契約における退職事由の扱い
次に、使用者と労働者の雇用契約(就業規則等の規定を含む。)における退職事由の扱いについて検討する。主に問題となるのは、退職金の計算基準や支給額が自己都合退職か会社都合退職かによって異なる場合である。
これについては、使用者と労働者の雇用契約の内容の問題なのであるから、基本的には使用者と労働者との間でどのような合意があるかによって扱いが決まる。もっとも、自己都合退職か会社都合退職かによって扱いに違いが設けられている場合でも、どのような退職の場合が「自己都合退職」であり、またどのような退職の場合が「会社都合退職」であるかが明確に定められている例は少ない(少なくとも筆者はあまり見たことがない。)。
明確な定めがない場合、自己都合退職か会社都合退職かをどのように判断するかが問題となるが、離職理由に特に争いがなく、労働者と使用者の主張が一致しているならば、基本的には離職票の離職区分を参照して考えることが多いように思われる(離職票の離職区分の内容については、取扱要領21503⑶ロ(ハ)参照。)。例えば、離職票記載の離職区分が「1A」の「解雇」であった場合には、雇用契約上も会社都合の退職と扱い、逆に「4D」の「正当な理由のない自己都合退職」である場合には、雇用契約上も自己都合の退職として扱うことになるだろう。
前述のように、退職手続代行においては、失業保険給付の給付制限との関係で、労働者の退職が雇用保険法第33条第1項本文に規定される「正当な理由がなく自己の都合によつて退職した場合」に該当するか否かが問題となる場合が多い。この場合、離職区分としては、「3A」の「事業主からの働きかけによる正当な理由のある自己都合退職」または「3C」の「正当な理由のある自己都合退職(3A、3B又は3Dに該当するものを除く。)」に該当するかの問題となる。
使用者との交渉やハローワークの判断によって離職区分が「3A」や「3C」に該当するとなった場合であっても、「自己都合退職」であるのだから、雇用契約上も自己都合退職として扱うということになるかがさらに問題となる。一般的な感覚として、使用者からの退職勧奨による退職や社内のハラスメントが原因で退職せざるを得なかった場合の退職が自己都合の退職であるとは考えにくく、当事者の合理的意思に鑑みても、雇用保険法第33条第1項本文における「正当な理由」がある場合には、会社都合退職として扱うという合意がなされていると解するべきであろう。
労働者側としては、このような見解のもと使用者と交渉し、会社都合退職として退職できるように交渉すべきである。合意ができた場合には、退職合意書において、会社都合による退職である旨を明示し、退職金の扱いについても明記することが望ましい(退職合意書については、第3回を参照。)。

