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【第2回】退職代行の法的問題点
はじめに
第1回では、退職代行の概要と非弁行為の問題について検討した。第2回では、退職代行における法的問題点を検討する。
退職の法的整理
退職代行においては、まず、労働者側から使用者に対して、退職の意思を表示することになる。労働者側から使用者側に退職の意思を表示する場合、2つの法律構成が考えられる。
1 辞職
1つ目として、労働者が使用者に対して、一方的に意思表示を行うことにより雇用契約を解約する場合が挙げられる。これを、「辞職」という。
使用者と期間の定めのない雇用契約を締結する労働者は、理由の如何を問わず「いつでも解約の申入れ」を行うことができ、申入れから2週間を経過することにより解約の効果が発生する(民法第627条第1項)。
一方、使用者と期間の定めのある雇用契約を締結する労働者は、「やむを得ない事由」がある場合に限り、直ちに解約をすることができる(民法第628条。なお、同条は期間の定めのない雇用契約を締結する労働者にも適用されるとされている。)。ここでいう「やむを得ない事由」があるかは、当該事由の重大さはもちろんのこと、当該事由が契約当初から予想できたものなのか、雇用契約締結の経緯(労働者が望んで有期雇用契約を締結したのか、使用者の都合で有期雇用契約を締結することになったのか等)を考慮して、社会的にみて「やむを得ない」といえるかによって判断することになるだろう(水町勇一郎「水町詳解労働法〔第2版〕公式読本」(日本法令、2022年)231頁以下参照)。
2 合意退職(合意解約)
2つ目として、労働者側から使用者に対して、退職(雇用契約の解約)の申入れを行い、使用者がこれを承諾することにより、将来に向けて雇用契約を解約するという合意を行う場合が挙げられる。これを「合意退職」(または合意解約)という。
辞職と合意退職の違い
辞職は、労働者の一方的な意思表示によって法律効果の発生する形成権の行使と解釈されており、使用者に意思表示が到達した後にこれを撤回することはできないとされている。
一方で、合意退職の申入れは、使用者側がこれを承諾するまでは、その意思表示を撤回できるとされている。
第3回以降、退職手続代行における実務的な流れを説明する予定であり、詳細はそちらに譲るが、退職手続代行においては、まず辞職の申入れを行った上で、使用者との交渉を行った結果、合意退職により労働者が退職する場合がある。そうすると、当初行った辞職の意思表示の撤回について、どのような法的構成によって認めるべきかが問題となる。
この点については、解雇(使用者の一方的な意思表示による雇用契約の解約)が労働者の同意を得ることで撤回ができること(最判昭和51年6月15日集民118号87頁、東京高決平成21年11月16日判タ1323号267頁参照)に鑑みると、辞職についても、使用者の同意を得ることができれば撤回が可能と解釈すべきであろう(使用者が辞職の撤回に明示的に同意していない場合でも、使用者が合意退職を承諾していれば、辞職の撤回にも黙示的に同意していると解釈してよいだろう。)。
退職申入れの予告期間に関する定め
退職代行を扱っていると、雇用契約の「退職」の欄に「自己都合退職の手続き(退職する30日以上前に届け出ること)」という規定がある場合や就業規則上に「従業員が自己都合により退職をする場合、退職する30日以上前に申し出なければならない」というような規定がある場合がある。このように、退職の申入れについて、雇用契約または就業規則に民法上の辞職の規定よりも長い予告期間を定めた規定があった場合、どちらが優先するのかという点が問題となる場合がある。
これについては、使用者が労働者を不当に人身拘束することを防ぐという趣旨からすると、民法上の辞職の規定は強行法規であり、民法上の辞職の規定よりも長い予告期間を定めた雇用契約または就業規則は、無効であるとする見解が一般的である。裁判例でも東京地判昭和51年10月29日判時841号102頁(高野メリヤス事件)において、同旨の内容が判示されている。
もっとも、退職の申入れ期間の規定は、かなり多くの会社の雇用契約や就業規則で定められており、その全ての規定が無効と解釈すべきではないだろう。そのため、雇用契約または就業規則の退職申出の予告期間に関する定めは、合意退職における退職(雇用契約の解約)の申入れについて定められた規定と理解すべきだと思われる。
退職通知代行業者が行うことができる業務の範囲
第1回で区分したように、退職代行には、使者を介して本人が直接使用者に退職の意思を表示する退職通知代行と、労働者の代理人が使用者に対し退職の意思を表示し、退職条件の交渉を行う退職手続代行の2つがある。
退職通知代行は辞職と親和性が高い。辞職は労働者が使用者に対して、一方的に意思表示を行うことにより雇用契約の解約という効果が発生することから、これに対する使用者の承諾は不要である。つまり、使用者に辞職によって退職することを伝えるのみで足り、その後は退職のために使用者と何らのやりとりも必要としないのであるから、使者構成であっても不都合はないだろう。
一方、合意退職は労働者側から使用者に対して雇用契約の解約の申入れを行い、使用者がこれを承諾することで雇用契約の解約という効果が発生する。使用者の承諾の前提として、少なくとも労働者側と使用者との間で退職日を調整することは必須であるから、必然的に労働者側と使用者との間で交渉が発生する。使者はこのような交渉を行うことはできない(交渉を行えば、それはもはや代理である)ため、退職通知代行業者(多くの場合が民間業者)が、合意退職による退職代行を行うことはほぼ不可能であろう。

