【第1回】退職代行の概要と非弁行為について

はじめに

 本連載は、退職代行についての法的問題や実務的な留意点などをまとめたものである。
 「退職代行」という言葉が巷で流行り始めてからどのくらい経ったかはわからないが、現在では、多種多様の退職代行サービスがある。
 そのような中、退職代行にフォーカスし、法的問題点や実務的な留意点をまとめた記事や書籍はあまり見当たらないように思える。そのため、筆者の備忘も兼ねて本連載を執筆した。


退職代行とは

 本記事の最初として、まずは「退職代行」とは何かを整理しておきたい。
 一口に退職代行といっても、様々なものがある。

1 退職代行を依頼する主体

 退職代行を依頼する主体(以下「労働者」という。)としては、いわゆる正社員(使用者と期間の定めのない雇用契約を締結し、フルタイムで勤務する労働者)と非正規社員(正社員に含まれないパート・アルバイト社員、契約社員、嘱託社員、派遣社員等)が考えられる。
 退職代行について検討する上で特に重要なのは、期間の定めのない雇用契約を締結する労働者であるか、それとも期間の定めのある雇用契約を締結する労働者であるかである(詳しくは第2回を参照)。
 国家公務員及び地方公務員については、民間企業とは異なる法的規制があり、一般的な民間企業の退職代行とは別途で検討しなければならない。
 これに加えて、厳密にいえば労働者ではないものの、業務委託契約の受注者が退職代行として契約の解約の代行を依頼する場合もある。そのため、広い意味では、業務委託契約の受注者も退職代行を依頼する主体に含まれるであろう。

2 退職代行を行う主体

 労働者の代わりとして何らかの退職手続を行う者(以下「代行者」という。)としては、主に民間業者、労働組合(ユニオン)、弁護士(法人を含む)という3つが考えられる。また、民間業者の中でも、純粋に民間業者が行うもの、弁護士の監修を受けた民間業者が行うものがある。

3 退職代行サービス(業務)内容

 代行者が行うサービス(業務)内容についても各代行者によって異なる。
 つまり、労働者に代わり退職の意思を使用者に伝えることのみを業務とするもの、退職の意思を使用者に伝えるのみならず、具体的な退職条件(退職日、有給休暇の取扱い、退職金の金額や支払期日、退職に伴い交付される書類の内容や交付期日等)の交渉を行うことを業務とするもの、またはその一部のみの交渉を行うことを業務とするものなど様々な内容がある。


非弁の問題

1 非弁行為の概要

 ここで、昨今でも問題となっている退職代行の非弁行為の問題について、少し触れておきたい。
 非弁行為とは、弁護士法第72条本文に違反する行為、つまり、(i)弁護士ではない者が、(ii)報酬を得る目的で、(iii)訴訟事件に加え、当事者間で既に紛争が発生している事案や、将来紛争が発生する可能性が高い(あるいはほぼ避けられないような)事案(「法律事件」)について、(iv)法律相談を行ったり、代理人として交渉を行ったりする行為(「法律事務」)を、(v)業とする(繰り返し行っている、あるいは初回であるとしても繰り返し行う予定で行う)こと(東京弁護士会HP)をいう。
 弁護士資格を有する者が行う退職代行については、具体的な退職条件等の交渉を行ったとしても非弁行為に該当しないことは当然である。また、労働組合(ユニオン)が行う退職代行についても、少なくともその団体が労働組合法第2条において定義される「労働組合」の要件をみたす限りは、使用者との団体交渉権を有することから、使用者との団体交渉を行うことで具体的な退職条件の交渉を行うことは可能であろう(退職代行を行う労働組合についても、様々な問題があり、別途触れる機会があれば検討したい。)。
 そこで、以下では、民間業者が行う退職代行の非弁行為該当性の問題を検討する。

2 非弁行為に該当する退職代行

 先に述べた退職代行サービス(業務)内容に沿って、代行者がどのようなサービスを行った場合に非弁行為に該当するかを確認したい。

 まず、「労働者に代わり退職の意思を使用者に伝えること」が非弁行為に該当するのか(ここでは、弁護士法第72条本文の「その他の法律事務」に該当するか)を検討する。
 判例(東京高判昭和39年9月29日高刑集16巻10号1418頁)によると、「その他の法律事務」とは、「法律上の効果を発生変更する事項の処理」とされている。退職の法的性質については第2回で検討するが、詳細な法的性質は抜きにしても、代行者が労働者に代わり、退職の意思を使用者に伝えることは、労働者と使用者の雇用関係の解約という法律上の効果が発生するものであるから、「その他の法律事務」に該当するようにも思われる。この点について、民間業者の解釈としては、代行者は自ら意思表示を行う代理人ではなく、あくまで「使者」であり、労働者の指示により、労働者が既に決定した退職意思を使用者に伝達しているにすぎないとする。
 代理人と使者の違いは相対的であり、上記のような解釈は、正直なところかなり「グレー」と言わざるを得ないが、ここでは非弁行為には該当しないとして論を進める。

 次に、具体的な退職条件(退職日、有給休暇の取扱い、退職金の金額や支払期日、退職に伴い交付される書類の内容や交付期日等)の交渉を行うことについて、検討したい。
 どのような退職条件について交渉するかにもよるが、少なくとも、代行者が上記に挙げた退職条件の典型例について交渉することにより、雇用契約の解約や金銭の支払いに関する債権債務という法律上の効果を発生させるため、これらの交渉が「法律上の効果を発生変更する事項の処理」にあたることに疑いの余地はないだろう。したがって、民間業者が退職条件の交渉を行うことは非弁行為に該当する可能性が高い。


「退職代行」の区分

 このように考えると、民間業者が行うことのできる退職代行とは、単に労働者が既に決定した退職意思を使用者に伝達することのみである。
 労働者が使用者との交渉なしで退職を行うことができる法的構成は、民法上の辞職の規定(民法第627条第1項または同法第628条第1文)に基づく場合のみである。
 いわゆる合意退職を前提とする場合やそれに伴い退職条件を調整することが必要な場合、民間業者がこれを退職代行として取り扱うことは非弁行為に該当する可能性が高い。
 本連載では、「労働者に代わり退職の意思を使用者に伝えること」のみをサービス(業務)内容とする退職代行を「退職通知代行」と呼ぶ。これに対し、具体的な退職条件の交渉も行う退職代行のことを「退職手続代行」と呼ぶ。
 このような整理を前提とすると、民間業者が行うことができるサービス(業務)は退職通知代行のみであり、退職手続代行を行うことは非弁行為に該当するということになる。
 少なくとも筆者の経験からすると、労働者の代理人として民法上の辞職の規定に基づき退職の意思表示を行ったとしても、ほとんど全ての事案で最終的には合意退職の形をとることになり、退職通知代行の業務内容のみで労働者が退職できるというケースは皆無に等しいのが実情である。
 これを踏まえ、第2回では、「辞職」と「合意退職」の法的性質の違いを確認し、退職通知代行と退職手続代行のサービス(業務)内容の違いについてより詳しく検討したい。


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