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【第5回】退職代行の実務的対応と留意点3(使用者回答なしへの対応編)
はじめに
第4回では、退職手続代行における交渉・合意書の記載について検討した。第5回以降では、退職手続代行を行う上で直面することの多い問題について取り上げていきたい。今回は使用者からの回答がないまたは使用者が退職を認めない場合について取り上げる。
使用者からの回答がない、または、使用者が退職を認めない場合
通知書を送付した場合に、使用者からの回答がない場合がある。また、回答はあったものの、使用者が退職を認めないという場合がある。
第3回でも述べたとおり、通知書において退職(雇用契約の解約)の意思表示を行う場合は、このような場合に備えて、使用者の承諾がなくても意思表示が使用者に到達すれば雇用契約の解約の効果が発生する民法上の辞職として雇用契約の解約の意思表示を行っている。したがって、このような場合であっても、法的には民法第627条第1項により、通知書の到達から2週間が経過した時点で使用者と労働者の雇用契約が終了していることになる。
しかし、法的に使用者と労働者の雇用契約が終了したところで現実的には何の解決にもならない場合が多い(このような場合、退職通知代行は、以下で述べる退職に伴う書類についての対応を労働者に丸投げしてしまう形になってしまっている。)。労働者が次のステップ(転職または休職等)を踏み出すために、形式的に整えておかなければならないものとしては、退職に伴い使用者から労働者に交付されるべき書類が挙げられるであろう。この書類については、基本的には使用者が退職を認め、使用者が手続を行った上で発行される書類である。そのため、使用者が退職を認めない場合、退職手続代行としてどのように対応すべきかを確認する。
源泉徴収票
源泉徴収票については、交付期限が退職の日から1ヶ月(所得税法第226条)となっており、不提出の場合には刑事罰がある(同法第242条第5号)。
使用者から源泉徴収票が交付されない場合には、源泉徴収票不交付の届出手続を行うことになる。具体的な方法としては、労働者の納税地等を所轄する税務署長に対し、「源泉徴収票不交付の届出書」を提出する。添付書類として、給与明細及び勤務先に対して、源泉徴収票の交付を求めたことが分かる書類(退職手続代行においては、通知書(内容証明郵便及び配達証明書)や交渉において源泉徴収票の交付を求めた徴標)も合わせて提出する。代理人として届出を行うためには、委任状も添付する。提出後、税務署の担当者から追加の事実確認(使用者とのやりとりの詳細等)や追加の書類提出を求められることもある。
届出書の提出を受けた税務署は、使用者に対し源泉徴収票を交付するよう行政指導を行う。使用者が行政指導にも従わない場合は、刑事告訴・告発を検討せざるを得ないだろう。
離職票
使用者から離職票が交付されない場合には、労働者が使用者の事業所を管轄するハローワークに対し、雇用保険の被保険者資格の喪失の確認(雇用保険法第8条及び雇用保険法施行規則第8条)及び、離職票の交付(雇用保険法施行規則第17条第1項第3号及び同条第3項)を請求する。
雇用保険の被保険者資格の喪失の確認の手続は以下のとおりである。まず、被保険者となったこと(被保険者でなくなったこと)の確認請求(聴取)書を使用者の事業所を管轄するハローワークに提出する(雇用保険法施行規則第8条第2項、厚生労働省「雇用保険に関する業務取扱要領」(以下「取扱要領」という。)21251⑴及び20752⑵参照)。この際、証拠があるときはそれを添えて提出する。この書面の作成提出を代理人名義で行うことは実務上認められにくく、記載内容について助言しながら労働者本人に作成提出してもらうことになる。
提出を受理したハローワークは、提出された証拠等から雇用保険の資格喪失の事実があると確認した場合は、労働者に対し資格喪失確認通知書(被保険者通知用)を交付する(取扱要領21252⑵)。
この確認はいわゆる裁量行為ではなく、行政庁が法定の要件に該当する事実がある限りにおいて確認すべき義務を負うという法的性質であるとされている。民法上の辞職により退職した場合、通知書到達から14日経過後に内容証明による通知書及び配達証明書を証拠として提出していれば、退職の事実(≒雇用保険の資格喪失の事実)があったことが明らかであることから、ハローワークは雇用保険の資格喪失を確認すべき義務を負うと解される。
しかし、ハローワークは法律の専門家ではないため、民法上の辞職の法的性質について十分に理解せずに弁護士が介入している事案においては事実の争いがあるのが当然であると勘違いして、確認を行わないということがある。そのような場合でも、当該事案の事実関係や民法の辞職の法的性質をしっかり説明して、ハローワークが確認すべき義務を負うことを理解してもらえるように尽力すべきである(実際、筆者が経験した事案では、筆者がハローワークに対し辞職の法的性質等を説明したところ、ハローワークが上部機関にあたる労働局に問い合わせを行った上で、最終的に被保険者資格の喪失の確認を行ったということがあった。)。
社会保険資格喪失証明書
第3回でも概要を述べたように、労働者が健康保険・厚生年金保険資格取得・資格喪失等確認請求書(通知書)を日本年金機構に提出し、資格喪失の確認を受けることができる。申請者を代理人として、代理人が手続を行うことも可能である。また、離職票や退職証明書を入手することができれば、国民健康保険への切り替えができる場合もある。

