【第4回】退職代行の実務的対応と留意点2(交渉・合意書編)

はじめに

 第3回では、退職手続代行における通知書の内容について検討した。第4回では、退職手続代行における交渉や退職合意書作成の留意点について述べる。


使用者からの回答

 退職手続代行において、使用者が通知書を無視して何らの回答をしないというケースはほとんどなく、何かしらの回答があるのが通常である(回答がない場合の対処法については、第5回で検討する。)。この時点で、使用者側にも代理人が就いている場合も少なくない。
 使用者側に代理人が就いていない場合、通知書において書面での回答を希望する旨の内容を盛り込んでいても、使用者が電話での回答を希望する場合も多い。なるべく電話でのやりとりは避けたいところであるが、やむを得ず電話で対応する場合には、重要なやりとりは録音したり、しっかりとメモを残しておいたりするべきである。

使用者との交渉

 使用者との交渉内容は、各事案において様々であるが、基本的には通知書に記載した内容について、具体的な内容を詰めることになる。
 ここではほぼ全ての退職手続代行で問題となる内容を扱い、事案ごとに問題となる内容については、第5回以降で検討することにする。

1 退職日の調整

 通知書の段階では、民法上の辞職の規定により雇用契約の解約を行う意思表示を行っていることから、通知書到達から14日経過後を退職日とするのが、最も交渉の余地が少なくスムーズに進むだろう。
 もっとも、労働者の有給休暇が14日以上残っている場合、有給休暇を全て取得した上で合意退職する方が労働者の最終月の賃金が高くなることから、そのような場合は、なるべく有給休暇を全て取得した上で退職できるように交渉すべきであろう。

2 賃金・退職金の支払い

 賃金・退職金については、まず、支払い金額を使用者に確認すべきである。その際、支払総額(いわゆる額面金額)及び法定控除後の金額とその根拠(計算方法や根拠となる雇用契約・就業規則の規定等)を使用者から提出させるべきである。また、支払期日についても雇用契約・就業規則の規定等を確認しながら、調整を行う。
 支払方法については、労働者の給与振込口座に振り込む方法、代理人の預かり金口座に振り込んでもらう方法、直接手渡しをする方法があるが、支払いの履歴を確認できる振り込みが望ましいだろう。

3 退職に伴い交付される書類の調整

 退職に伴い交付される書類(具体的な書類の内容については、第2回を参照)については、まずは大まかでもよいので交付される期限を調整する。退職後の労働者の生活に関わる手続に必要な書類であるためなるべく早急な交付を要求すべきである。使用者から法律上定められている交付期限よりも遅い期限を提案された場合はもちろんのこと、使用者が明らかに嫌がらせ目的で交付期限を遅らせているような場合(筆者の経験では、2週間程度で全ての書類が揃うのが通常のように思える。)には、交付期限を早めるように交渉すべきであろう。

4 貸与品及び私物の授受

 貸与品及び私物の授受については、その受渡方法と返還期限を調整する。
 受け渡し方法について、多くの場合は郵送で対応するが、直接受け渡しを行い、返還物の内容や動作の確認などを行うことも場合もある。当然ながら、授受の際は物品に関する受領書を作成しておくべきだろう。また、使用者が貸与品を確認したところ、使用者が想定していたものと異なる物であったというケースもあるため(筆者も経験がある。)、写真を送る等して事前に返還物を使用者側に確認してもらっておくことが望ましいだろう。
 郵送の場合は、送付費用の負担はもちろんのこと、どのような送付方法をとるか(特にノートPC等の精密機器を返還する場合には、パソコン宅急便を利用する等)を調整の上で返還することが望ましい。また、返還の際は受領書を同封し、相手が受領した証拠を残すべきだろう。もっとも、貸与品については代理人を経由せず、労働者から直接使用者に返還してもらう場合もある。そのような場合は、最低限追跡可能な方法(郵便を使うのであればレターパックプラス等)で送付するように指示するべきであろう。


退職合意書の作成

 退職条件について使用者との調整ができた段階で、使用者に対し退職合意書案を提示する。また、使用者側も代理人がいる場合には、使用者側から提案がされる場合もある。
 基本的には、使用者との交渉によって合意できた内容を記載すれば良いことになるが、以下ではその具体的な内容について、検討する。

1 退職(雇用契約の終了)に関する条項

 まず、労働者が退職することを確認する条項を記載することになる。
 条項の記載としては、例えば「甲(労働者)及び乙(使用者)は、両者間の労働契約が、令和●年●月●日をもって終了した(する)ことを相互に確認する。」というような確認条項の形式となることが一般的である。
 上記の記載例のように、労働者と使用者の雇用契約が終了する旨、契約終了日(退職日)が最低限記載すべき条項内容であろう。これに加え、退職事由(会社都合か、自己都合か)を記載する場合も多い。
 第2回で検討したように、退職手続代行によって労働者が退職する場合、民法の辞職の規定による場合と合意退職による場合がある。上記の記載例では、いずれの法的構成による退職であるか明確ではないが、このような記載でも問題がない事案も多いだろう。
 もっとも、例えば、当初は辞職の規定により雇用契約の解約の意思表示をしたが、労働者の有給休暇が15日以上残っているという事案で、使用者との交渉の結果、残っている有給休暇を全て取得した上で退職することで合意ができたというような場合(つまり、雇用契約の解約の意思表示から15日以降の退職日での合意退職となった場合)には、有給休暇の消化日数を明確にするためにも、民法上の辞職による雇用契約の解約の意思表示の撤回や合意退職である旨を条項上も明確に示した方が良いと思われる。例えば、使用者が解雇を撤回し労働者が合意退職により退職する場合を参考に、以下のような記載が考えられるであろう。

第●条
1 甲は、令和●年●月●日付で乙に対して行った辞職の意思表示を撤回する。
2 甲及び乙は、両者間の労働契約が、令和●年●月●日をもって、(甲の自己都合による)合意退職により終了したことを相互に確認する。

2 未払賃金及び退職金の支払い

 未払賃金及び退職金の支払いについては、使用者が労働者に対し金銭支払義務があることを認める旨、支払い期日及び支払方法等を記載する。

3 退職に伴い交付される書類について

 退職に伴い交付される書類について、合意書を作成する時点で交付されていない場合には、交付する書類の種類及びその交付期限を記載する。

4 貸与品及び私物の授受

 貸与品や私物の授受についても、合意書を作成する時点で授受が完了していない場合は、貸与品や私物の種類及びその返還方法等を記載することになる。品数が多い場合は、別紙として貸与品リストを付ける場合もある。

5 合意の経緯、合意書の存在及びその内容の開示禁止

 退職合意書以外の合意書でも記載されることが多い内容ではあるが、合意の経緯、合意書の存在及びその内容を秘密とし、開示や漏洩をしない旨の条項を記載する。使用者側にこの条項を入れるメリットがあるのは当然であるが、労働者としても、退職代行を使って前職を退職したことについて転職先に知られたくないという希望がある場合も多く、メリットがあるだろう。

6 誹謗中傷等の禁止

 主に使用者側のメリットとなる内容だが、誹謗中傷、信用毀損又は業務妨害に当たる言動をしない旨を記載する。使用者側が合意書案を提案する場合、労働者のみに義務を課す内容である場合が多い。そのような場合は、念のため、使用者にも義務を課す内容とするように交渉するのが望ましいだろう。

7 清算条項

 最後に労働者及び使用者に合意書に定める内容のほかに、何らの債権債務がないことを相互に確認する旨の清算条項を記載する。
 これに加え、使用者、使用者の役員及び従業員に対し、一切の申し立て、または請求等の手続をしないといった内容の記載を使用者側から提案される場合がある。基本的に使用者の役員及び従業員は合意の当事者ではないため、その効力がどこまで及ぶかは議論の余地があるが、例えば、労働者が退職に至った原因として、使用者の役員又は従業員からのハラスメントがあった場合など、使用者の役員又は従業員個人に対する請求の可能性がある場合には、(使用者に対する部分は受け入れつつ)使用者の役員又は従業員に関する部分は削除するように交渉すべきであろう。


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