【第3回】退職代行の実務的対応と留意点1(通知書編)

はじめに

 第2回では、退職代行の法的問題点について検討した。第3回からは、退職代行の実務的対応と留意点を検討する。


退職手続代行の一般的な流れ

 まず、筆者が退職手続代行を受任した後、どのような流れで対応をしているかを説明する。ここでは期間の定めのない労働者の退職手続代行の場合を念頭においている。おおまかな流れは以下の通りである。

  1. 通知書の送付
  2. 使用者との退職条件交渉
  3. 退職合意書の締結

 第3回では、交渉の前提となる通知書について検討する。


通知書送付の方法

 使用者に対し、退職の意思表示等の内容を記載した通知書を送付する。送付の方法は内容証明郵便を用いる場合がほとんどである。
 依頼者が即時に退職の意思表示をすることを希望する場合は、使用者の担当者宛に通知書のPDFファイルを添付した電子メールを送付する方法を用いる場合もある。電子メールを用いる場合には、電子メールで送付する通知書と同内容のものを内容証明郵便を用いて同時に送付することもある。

 即時の意思表示の方法として電話による通知も考えられるが、文書による証拠保全という観点からするとやはり通知書を上記のいずれかの方法で送るべきだろう。電話を使う場合としては、使用者から労働者に対し電話で連絡があり、その対応を依頼された場合であろう。その場合でも退職手続代行業務を受任した旨、通知書を送付する(した)旨及び詳しい内容は通知書を確認してほしい旨を伝え、具体的な回答は文書でもらうようにした方が良いだろう。

通知書の内容

1 退職(雇用契約の解約)の意思表示

意思表示の内容

 通知書の内容として、まず必要不可欠なのは退職の意思表示である。内容として、民法上の辞職として雇用契約の解約の意思表示を行うか、それとも合意退職を前提として解約の申入れを行うかが問題となる(2つの違いについては、第2回を参照)。この点については、使用者が通知書に回答しない(無視する)可能性があることからすると、基本的には、使用者の回答がなくても意思表示が使用者に到達すれば雇用契約の解約の効果が発生する民法上の辞職として意思表示を行うべきであろう。
 具体的な内容としては、民法第627条第1項に基づき雇用契約の解約の申入れを行うこと、通知書の到達から2週間が経過することで使用者と労働者の雇用契約が終了することを記載すれば足りるだろう。

退職申入れの予告期間に関する定めに対する反論

 使用者からの回答において、雇用契約または就業規則に規定されている退職申入れの予告期間に関する定め(詳しくは第2回を参照)による反論が想定される。これに対応するために、通知書の段階で民法の辞職に関する規定は強行法規であり、雇用契約または就業規則における退職申入れの予告期間に関する定めによる反論は認められない(予告期間を定めた規定が「無効」と言い切ってしまった方が簡潔であるため、そのように記載する場合も多い)旨を記載する。雇用契約または就業規則が労働者の手元になく内容が確認できていない場合でも、退職申入れの予告期間に関する定めが存在すると仮定して、その規定に対する反論を記載する場合が多い。

2 予告期間の扱い(年次有給休暇の取得または欠勤)

 民法上の辞職として雇用契約の解約の意思表示をした場合、通知書到達から2週間を経過するまでは使用者と労働者の雇用関係が継続しており、労働者は雇用契約に基づく就労義務を負う。
 もっとも、労働者が退職手続代行を利用して退職を希望している場合、労働者は何らかの理由(例えば、職場内でのハラスメント、不合理な配転命令等)により、2週間の勤務継続が困難な事案が多い。そのような明確な理由はなくても、退職を申し出た手前、職場への気まずさから勤務しにくいという声もよく聞く。
 そのため、2週間の予告期間については、労働者の有する年次有給休暇を取得し、退職日まで出勤しないという方法をとることが多い。つまり、通知書において、通知書到達の日から退職日までの間は年次有給休暇を取得する旨を記載し、年次有給休暇の時季指定を行う。また、労働者が2週間以上の年休権を有していない場合も想定される。そのような場合は欠勤の申請を行う。
 使用者からは、時季変更権の行使の可能性や債務不履行に基づく損害賠償請求の可能性があるが、退職手続代行の実務上は、このような請求等が使用者からなされることはごく稀であり、問題にならない場合が多い(もっとも、このような請求等の可能性があることは、通知書送付前に労働者に説明すべきであろう。)。

3 退職に伴い交付される書類

 次に退職に伴い使用者が労働者に交付すべき書類の交付を求める旨を記載する。具体的には、源泉徴収票、離職票、社会保険資格喪失証明書等の交付が挙げられる。以下で概観するように、労働者の退職後の手続に関わる重要な書類であるため、なるべく早期での提出を求めるべきである(必要であれば交付期限を設けることも有効であろう。)。

  • 源泉徴収票
     労働者が転職する場合、転職先に提出する必要がある。交付期限は退職の日から1ヶ月(所得税法第226条)となっている。
  • 離職票
     主に労働者が退職後に雇用保険の求職者給付を受給するために必要な書類である。また、後述するように社会保険資格喪失証明書の代わりとして利用する場合もある。法律上交付期限は定められていないものの、離職票交付の前提となる雇用保険被保険者資格喪失届及び雇用保険被保険者離職証明書をハローワークに提出する期限が退職日の翌日から起算して10日以内と定められている(雇用保険法施行規則第7条第1項柱書及び同項第1号)。「離職理由」の記載内容及びその留意点については、第5回で述べる。
  • 社会保険資格喪失証明書
     主に労働者が退職後、国民健康保険に加入する際、退職前に加入していた健康保険(主に協会けんぽが管掌する健康保険)の資格を喪失した旨を証明するための書類である。もっとも、同証明書は労働者自身が直接年金機構等に請求することで交付を受けることが可能である上(参照:日本年金機構)、同証明書がなくても、代わりに離職票や退職証明書を提出することによって国民健康保険に加入できる場合もある。そのため、使用者から交付を受けることが必須とまではいえないものの、労働者が退職後、スムーズに健康保険を切り替えられるようにするため、使用者から交付を求めるべきであろう。

4 賃金・退職金の支払い

 退職時に未払賃金がある場合には退職日までの未払賃金を雇用契約に基づき支払うように求める。また、雇用契約または就業規則に退職金の規定がある場合には、退職金も規定に従い算定の上、支払うように求める。

5 貸与品及び私物の授受

 使用者からの貸与品がある場合、返還を行う旨を伝えることがある。また、労働者の私物が勤務先にある場合には返還を求めることもある。
 通知書に返還方法や返還期日まで詳細に記載することは少なく、通知書送付後の使用者との交渉において詳細を詰め、必要な場合は退職合意書にその内容を記載するという場合が多い。

6 連絡先に関する事項

 代理人(弁護士)の作成する通知書においてはほぼ必ず記載される内容ではあるが、退職手続に関する連絡は代理人宛とし直接労働者に連絡しないように使用者に依頼する旨を記載する。
 特に退職手続代行においては、使用者と直接やりとりを行いたくない(または行うことが困難である)労働者が多い。そのような労働者は代理人が使用者とのやりとりを全面的に引き受けることに大きなメリットを感じているため、連絡先に関する事項は忘れずに記載する。

7 その他

 慰謝料請求や残業代請求も受任している場合は、その内容を記載する。
 その他やや特殊な内容は、第5回でまとめて検討する。


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